語り手:武藤将胤さん
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の当事者。一般社団法人「WITH ALS」の代表理事及びクリエイターとして、テクノロジーを活用した疾患啓発や社会課題の解決に取り組む。
聞き手:伊東せりか
子どもの頃に父がALSを発症し、その後亡くなる。父と同じ医療の道へと進み、無重力下の新薬の実験ができるISS搭乗を目指し宇宙飛行士の道に進む。
連載開始から約19年のときを経て、ついに2026年6月に完結し、7月に最終巻が発売された人気漫画『宇宙兄弟』。登場人物の一人・伊東せりかさんが、ALSを専門とする先生や患者さんにインタビューをしました。
伊東せりかです。武藤さん、今日はよろしくお願いします!
こちらこそ、よろしくお願いします。『宇宙兄弟』の読者の一人として、楽しみにしていました。僕は『宇宙兄弟』12巻に出てきた、六太さんの「さあ はじめよう 想像ではうまくいってる」という言葉がとても好きなんです。
『宇宙兄弟』と、ALSの研究開発費のための組織「せりか基金」、武藤さんが代表理事を務める「WITH ALS」のトリプルコラボで制作したチャリティTシャツに、デザインとして採用された言葉ですね。

はい、英語で「LET'S GET STARTED. NO LIMIT,YOUR LIFE.」とデザインさせていただきました。さまざまな挑戦を始めるたび、何度もこの言葉に背中を押してもらっています。ちなみに、現在は目の筋肉が動くのを利用して、視線入力システムでパソコンを操作しています。
この言葉が気持ちを奮い立たせてくれているのですね。今こうして前向きに挑戦を続けている武藤さんも、ALSと診断された当時はさまざまな思いがあったのではないでしょうか?そのときの気持ちはどうだったのでしょうか。
確定診断を受けたのは2014年10月で、広告代理店に勤めていて忙しくも楽しく、充実した日々を過ごしていた頃でした。
その年は、世界中でアイスバケツチャレンジ(ALSへの関心を集め、寄付を募るために頭から氷水を被るチャリティ活動)が大流行していたんです。「まさか自分がこの難病になってしまうなんて。僕の人生はここでもう終了なのか」と、どん底に突き落とされたようで、ものすごくショックでした。
当時は絶望したのですが、今思うのは、決して「ALS=人生の終わり」ではないということです。今はALSの患者さんに「どうかあなたの夢を持って未来に進んでください」とお伝えしたいです。
『夢を持って未来に進む』という言葉は、武藤さんご自身が歩んできた道から生まれた言葉なのですね。木綿子(ゆうこ)さんにプロポーズしたのも、ALSと診断された後だったそうですね。
ALSの患者である前に、一人の人間として、人生をかけて幸せにしたいと想う相手だったので、ALSでどんな困難や試練があろうと、一つひとつ力を合わせて乗り越えて、必ず幸せにしていく、二人で幸せになっていくんだという覚悟でした。
2023年に娘が誕生したことで、その覚悟はより強くなり、僕の人生をかけて妻と娘を幸せにしていきたいと思っています。娘が生まれてから、一人のクリエイター・表現者として、娘の世代にも残るものをつくりたいという想いが強くなりました。先日、僕がつくった曲をかけたら、娘がノリノリで踊ってくれ、娘に確かに伝わっている気がしてとても嬉しかったです!
ALSの診断を受けて今結婚を迷っているという方がいらっしゃったら、「病気になったからといって、人を幸せにすることをあきらめないでいい」と声を大にしてお伝えしたいですね。いろいろなテクノロジーを活用すれば、自分らしく働いて家庭を持つこともできる。そう証明していきたいと思います。
武藤さんは2019年に人工呼吸器を装着しましたが、ALS患者さんは日本では約7割が人工呼吸器をつけないと言われています。装着前のお気持ちはいかがでしたか。
(人工呼吸器の装着のために)気管切開と喉頭気管分離手術をし、声を失ってしまうことへの葛藤はとてもありました。ラジオ番組のナビゲーターなどもやっていた僕としては、自分の声を失うと、自分のアイデンティティをも奪われてしまうような気がして、とてもつらかったです。
でも先ほどお伝えしたように、妻を必ず幸せにすると覚悟していたので、人工呼吸器をつけて生きていくことへの迷いはありませんでした。
実は、僕は子どもの頃からハリウッド映画でいろいろなヒーローたちを見て、その影響でチャレンジ精神を持つようになったんです。学生時代にプロデュースしたさまざまなイベントを通じて、社会を明るくするアイデアを形にしたいと考え、広告代理店に入り、クリエイターとして作品をつくる道に進みました。
「未来を少しでも明るく変えていきたい」という想いはALSになってからも変わっていません。そこで企業と音声合成技術の共同研究をし、視線入力技術と掛け合わせて自分の声で発話できるサービスを実用化しました。「これなら自分の声で大切な人とコミュニケーションをとり、社会にも発信し続けられる」と思えたことが、気管切開手術を受ける決心に繋がったんです。
人工呼吸器の装着は延命治療だと重くとらえられがちですが、呼吸をサポートしてくれるテクノロジーです。患者さんには「先延ばしせずに、有効活用してください」とお伝えしたいですね。
つらいご経験をお話しくださってありがとうございます。その経験から、ご自身の声を残す方法を実現されたことは、おなじような状況にある方にとっても、大きな希望になりますね。
大きな一歩でした。過去のわずかな音声データから本人の声を再現できるコミュニケーションツールで、日本語だけでなく、英語・中国語・フランス語・韓国語・スペイン語での発話にも対応しています。音声合成コミュニケーションサービス「Project XrossVoice(プロジェクトクロスボイス)(リンク:https://withals.com/post/?id=541)」という名称で、2026年6月に提供を開始しました。
武藤さんはそうした研究のほか、作曲やDJ活動、コンサートのプロデュースまで、とても幅広く活動していますよね。その情熱の源は何なのでしょうか?
ALSをはじめ、さまざまな障がいや困難と闘う日本中・世界中の人に、希望のメッセージを届けたいという想いです。人生をかけて、「NO LIMIT,YOUR LIFE.」というメッセージを体現し続けたい。そう思って、僕はとことん自分から行動するようにしています。
それまで不可能だったことが可能になっていくと、未来をより強く信じられるようになるんです。今も未来を信じて歩み続けています。
武藤さんが手がけている日本最大のALS啓発音楽フェス「MOVE FES.」などでも、多くの方と共演や協働をしていますよね。
実現したいビジョンを掲げて、自分が率先して動きながら仲間を巻き込んでいくんです。そうしてアイデアを一つひとつ具現化して、ビジョンの解像度を上げていきます。すると挑戦が連鎖して、コラボレーションしてくれる仲間も増えていくと実感しています。
ALSは進行とともに身体を動かすことが難しくなっていく病気です。脳波でのコミュニケーション技術の研究開発にも取り組まれていますが、この技術にどのような可能性を感じていますか?
2018年からさまざまな企業や大学と連携して取り組んでいます。「はい・いいえ」といった簡単な意思伝達にとどまらず、進化しているんですよ。
2026年に開催した「MOVE FES.」では観客のみなさんの前で、脳波で6本のロボットアームをコントロールし、世界で初めて脳波によるドローン飛行・着陸にも成功しました。アメリカでは、脳への埋め込み型のブレインマシンインターフェースの実用化が進められていますが、僕らのように非侵襲型と言われる、頭皮に電極を付けるだけのブレインマシンインターフェースでもできることがどんどん増えています。
すごいですね。脳波を使って、さらにやってみたいことはありますか?
僕はDJアーティストとして視線入力でDJ(ディスクジョッキー)とVJ(ビデオジョッキー)をし、脳波でロボットアームを操るライブパフォーマンスをしているので、世界のステージに挑戦したいです。特に、自分が4歳まで過ごしたアメリカでのステージに挑戦したいですね!
パフォーマンスを通して、脳波の研究スピードも上がっていきます。日常生活にも応用すれば、脳波による車椅子などの運転も可能になっていくと考えています。
ALSはすべての患者さんを対象に根本治療ができる状況ではないものの、少しずつ治療法が進歩を遂げています。ALSの治療薬開発にどのような期待をしていますか。
「WITH ALS」は「せりか基金」のファンドレイジングパートナーとして、長年ALSの研究開発費用を共に集め、研究者の皆様に寄付する活動を続けてきました。
「WITH ALS」は2026年で設立10年を迎えますが、この10年間で着実にALSの発症メカニズムは特定され、新たな治療法も少しずつ登場しています。それを目の当たりにしてきたので、今は必ずALSが治せる未来に辿り着けると信じられている自分がいます。
ALSの治療薬開発に携わるすべての医師、研究者の皆様、僕たちALS当事者もALSの認知理解を広げて、研究開発費用を集める活動を続けていきますので、一日でも早くALSが治せる未来を共に実現させましょう。
武藤さんは「不可能を可能にする」をまさに体現していますね。さらなる挑戦を楽しみにしています。
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「遺伝との関係はあるのだろうか」と感じた方へ。
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