語り手:和泉唯信先生
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の病態解明や治療法開発を牽引。
新たな治療選択肢の実用化にも取り組む。 ALSの治療法の進展のため研究開発費を集める「せりか基金」の審査員を務める。
聞き手:伊東せりか
子どもの頃に父がALSを発症し、その後亡くなる。父と同じ医療の道へと進み、無重力下の新薬の実験ができるISS搭乗を目指し宇宙飛行士の道に進む。
和泉先生、伊東せりかと申します。今日はよろしくお願いします!
どうぞよろしくお願いします。
私が子供のときに父がALSを発症し、その後亡くなりました。
実は、父は医師でALSの研究をしていたので、私はその道を引き継ぐために病理医を目指し、無重力下の新薬の実験のため宇宙飛行士を志したんです。
和泉先生がALSを専門にされたきっかけは何だったのですか?
私は徳島大学の医学部を卒業して、医師になるときに脳神経内科を選びました。
はじめは、脊髄小脳変性症という難病の遺伝子研究に取り組んでいたんです。医師になって6年目のとき、徳島大学に教授として赴任された梶龍兒先生(現同大特任教授)から「ALSの研究を手伝ってくれないか」と声をかけていただきました。これが最初のきっかけなのですが、その後、仕事が楽しくて無茶をしてしまって、2006年に自分が脳梗塞を起こしてしまったんです。
先生ご自身が脳梗塞に。麻痺などは残らなかったのですか?
当初はふらつきと強いめまいがありましたけど、幸い、麻痺は残らなかったんです。
その入院中に「しっかりと患者さんに向き合えていたのだろうか」 と考えました。医師として仕事は続けられそうでしたので、研究対象をALSに絞ることにしたんです。
脳梗塞で倒れた年に、日本人患者さんのデータを収集する新しい登録システム「JaCALS」 が立ち上がりました。翌年から徳島大学もそれに参加し、患者さんのお一人お一人の経過観察に注力できました。それはしっかりと患者さんに向き合えている気がして、私にとって非常に手応えがある仕事でした。JaCALS研究は今では世界的にみても大規模な研究になっています。
それまでは日本人のデータ収集システムは確立されていなかったんですね。
今、ALSの原因はどこまでわかっているのでしょうか?
前に比べると分かってきたことは増えていますが、ALSの原因はまだ完全には解明されていません。現在は、遺伝子の変異や加齢、環境要因など、複数の要因が重なって発症すると考えられています。その中でも近年、大きく進展したのが遺伝子の研究です。
以前は、ALSは「家族にALSにかかった人がいるかどうか」で大きく分けられていましたが、最近の研究で、家族にALSにかかった人がいなくても、遺伝子の変異が関係して発症するタイプがいることが分かってきました。でも、遺伝子の変異だけが原因ではなく、加齢などの複数の要因によって発症すると考えられています。
せりかさんはご存知でしょうけれど、遺伝子とは親から子へと受け継がれる、生物の性質や特徴を決める設計図ですよね。そのALS患者さんの家族の別の人にALSにかかった人がいたら、生まれつきALSの原因となる遺伝子変異を引き継いでいる可能性があります。一方、家族にALSにかかった人がいなくても、ごくまれに遺伝子の突然変異が起こり、それによって発症することがあります。原因がすべて解明されたわけではなく、研究が今も進められています。
遺伝子の研究は進んでいるんですね。
ALSの原因とされる遺伝子の変異には、どのようなものがありますか?
ALSを引き起こす可能性のある遺伝子は20種類以上あるとされ、どの遺伝子にどの変異があるかによって発症の仕方や年齢、進行のスピードが異なります。
最初に解明された遺伝子が、superoxide dismutase 1 (SOD1) です。日本の遺伝するタイプのALSには、SOD1遺伝子の変異が最も多く見られます。でも、家族にALSがいないALS患者さんでも、約2%にこの変異が見つかっています。
また、若年発症のALSに見られることがあるFUSという遺伝子や、ALS患者さんの脊髄や脳にたまると言われているTDP-43に関係する遺伝子もあります。ただこれは少数ですね。
親がALSになった場合、遺伝で自分も発症するのではないかと心配される方は多いと思います。実際はどうなのでしょうか?
親にALSの原因となる遺伝子変異があっても、その子どもが必ずALSになるわけではありません。心配する方は多いかもしれませんが、両親のどちらか一方から病気に関係する遺伝子変異を一つ受け継ぐことによって、病気が発症する 常染色体顕性遺伝の場合、両親から一つずつ遺伝子を受け継ぎますから、遺伝する確率は50%です。ただし、遺伝子によっては変異を受け継いでも、必ずしも発症しない場合もあります。
遺伝子変異があっても発症しない人もいるんですね。今はどのような治療がされていますか。
以前は遺伝の有無にかかわらず患者さんの誰もが同じ薬を使っていました。でも近年、SOD1遺伝子の変異によるALSに対する薬が開発され、従来の薬とは違う効果があると分かったんです。ただし、SOD1遺伝子を持たない人には効果はありませんので、遺伝子変異の有無によって治療法が変わります。
近年では他の遺伝子変異に対する治療開発も期待が寄せられていて、研究の流れが変わりつつあります。
ALSに関係する遺伝子に変異があるかどうかを調べる方法にはどのようなものがありますか?
健康診断などで発見することは難しく、遺伝子検査(遺伝学的検査)で調べることができます。日本では、次の三つに大きく分かれています。保険適用で調べられる検査、自費診療の検査、大学病院などでの臨床研究や治験です。検査によって、調べられる遺伝子は異なります。
保険適用の検査には、先ほどのSOD1の遺伝子検査があります。また、臨床研究や治験は、条件を満たしていないと受けることはできません。
検査の前には遺伝カウンセリングを受けることをおすすめしています。検査を受けるかどうかの判断や、結果の受け止め方、家族への伝え方などを、カウンセラーがサポートしてくれます。
遺伝カウンセリングでしっかりと相談もできるのですね。結果を知ることで、次の一手が考えられる場合もありますね。
そうです。早期発見、早期治療が大切なのです。
先生、ありがとうございました。
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